詩とか

禁猟区の上空より

禁猟区の上空より眺め下ろす 森は広く深く 低音に向かう無限音階の稠密さ 樹木は何よりも大きい 陽光は乱反射を経て浸透し 照葉樹の葉は光をむしろ吐き出す 生命の呼気と共に凝結し 見上げれば 光の雲から霧雨 渇きは無く 影も無く 蘚苔類は領地の絨毯に腐心…

アンチ道程

高村光太郎の詩集を買ってきた。当然、有名な道程の詩も入っているのだが、あまりにも能天気に見えてむかつく。 というわけでパロディにしてみよう。 僕の前に道は無い 僕の後にも道は無い 右手には壁 左手にも壁 あるいはこっちが前だったか 後ろだったか …

胡蝶

あの蝶は夕暮れの後 夜に沈んでしまうのではなかろうか 僕は眠りの中で鱗粉を呼吸する 朝を越えずに夢のまま 手にかかる水は鮮やかに 皮膚感覚と表題音楽をつないで 一度見た悪夢の内容を覚えている 妹が泣き叫びながら畳の隙間に 目が覚めたことは憶えてい…

神は天におわさずとも地はなべて事もなし

スーパーに向かう足の靴底の下にも世界は静穏なれ どう書いても短歌にはならないのでした。

流星雨の夜に

流星雨の夜に似て 流れ去る光の群れ 網膜に光跡を残し 目を閉じればかすみゆく 内側に傷跡を残し 思い出せば、疼く 過去ということ 光の領域から逸れていくこの部屋で 橙に紅に クロムと鉄と 煙も湯気も 無為に揮発し 見えず煌くワイヤーを手繰り 血に溶けた…

キラキラ

岩手銀行の支店の壁に描かれたキキとララというキャラクターに ついて昔、母と妹になぜあんなに悲しそうな顔をしているのだろ うと聞いた、いまでもタバコの煙のように流体力学に従って空気 に溶けた孤独の引きだすやさしい笑顔が僕には見える、母も妹も そ…

通学

「吹きだまりに落ちたら春まで見つからないぞ」 道ばたに先端を赤く塗った細い木の棒が立てられている 時計は持っていなかったように思う 学校のチャイムを目指して歩く 寒さを外側に残して意識は縮む 体の芯が冷たくなることはない スキーウェアのズボンを…

白黒

黒いビロードのスリッパから伸びる足だけが白い足 ナボコフの「ロリータ」の主人公がこんなことを言っていた気がした。読みにくかったな、あれ。 あ、追記。これは応募しようとしていた詩ではないですよ。

Diana

http://stage6.divx.com/members/91755/videos/1024971 私はまっすぐに立っていて その言葉はどれも愚直で でも誘惑はまっすぐで 少しよろめけば 温かな手のひらが 脇腹に触れるのではないかと 優しく 届いた人間は忘れる 知らない人間の、知らないというこ…

Rubyで

プログラミングも少しやるのだけれど、プログラミング言語で詩が書けないかなーと思う。 僕が使っているのは主にRubyという言語。それを色分けして表示してくれる機能があるらしい。 class Human def myself Proc.new{self} # 「私」がいう「私自身」、それ…

H+

ぬるま湯に浸かっていたわけではないだろうけど 熱い/冷たい水に足を浸けて 熱い/冷たい!と叫ぶとき 足と水は、分かりあった/染まってしまった 硫酸のおふろに足を浸け 皮膚/境界の痛みに叫び 恐怖/実在は言葉ではなく、叫び 溶け合ったときに僕は死ぬ…

暮れゆく一日に

暮れゆくならば、陽のあるうちに 死にゆくならば、生きている今 朝日が斜めに射し込むこの部屋で 茶渋をとって磨き上げたマグに 火傷するほど熱い紅茶を注ぎ 黄金色に輝く壁紙と 深くまで透き通る紅と いつの間にか目覚めたこの体を 描かれた一枚の絵のよう…

二人

例えば、わたしたちが闇色の恋を味わう間にも 夜の半球は這い進み、そして去り 太陽が覚醒を促せば わたしは世界に目を開く なんという拡がり なんという隔たり 時の、距離の、都市の、部屋の、 中で同じ場所を占める わたしとあなたの なんという実在 重み…

風は

強い風が吹いている 太陽を見つめれば 影を踏み 話している間は聞けず ここにいる間はどこにも行けず 一秒ごとに一瞬ごとに 未来から現在に、過去に 記憶に変わっていく 君にキスしたい 僕の存在は卑しいようで 僕の体は汚れていて 少しでも濯ごうと 今ここ…

世界の全て

彼女は夜空を見上げている。目を見開いて。 星でなく虚空を。無限の道程を辿った光を。 闇を。 呟き続ける。 「……全て』と言える全て』とそれ以外を含む全て』と言える全て』とそれ以外を 含む全て』と言える全て』とそれ以外を含む全て』と言える全て』とそ…

蜘蛛の巣

早朝、部屋のドアを開けると 霧が深く 柵に張られた蜘蛛の巣に水滴がつき やわやわとした重みに糸はたわみ 曲線に垂れ下がっている この細い糸にこの小さな水が身を寄せる 朝はまだ冷たい 陽が昇れば、水は 輝きを返し真に透明になる そのことを少し 惜しむ …

泉 シニフィアンの 出てきたなら 帰れないのか 枯れる 「おまえはこの壁の隙間から生まれたのだ」 闇の奥 原光景の 帰り着いても そこではない 貫く 光 北道正幸『プ〜ねこ』p146 より 鈎括弧内を引用しました。 マンガ読んでいて思い付くことって多いですね…

構想三分

いまそこに立っているおまえという物質の本当の姿はいかなるものか などと尋ねられましても 桜の花びらが鼻に入ってくしゃみをしたり 波のしぶきが目に入って慌ててこすってみたり 冷たい雪に手を突っ込んでああ冷たいななどと思ってみたり 煎餅を噛んだら虫…

現実

テレビに映ることは現実じゃないと モニターの向こうは現実じゃないと だからニュースは現実じゃないと だからネットも現実じゃないと 主張してみても 向こう側にも人はいて 何かを思い何かを作って そこにあるのは要するに 届かない断線 ドアの外こそ現実だ…

ステンレススチールに映る色を見て あなたが「紫」と言ったとき 空気中に拡がる前に 私は「紫」を吸い込み、辿り あなたの唇に辿り着く 抱き合い、重なり 乳房も、臍も、陰も向かい合えば (たとえ服越しであっても!) 触れ合えば あなたの形を変える私の形…

手帳にあったやつその2

この手があなたに触れるとき 世界はなぜか歩みを速め 誰かがあなたの唇を求めるのです 磁石が引き合うことが 歯車が噛み合うことが 真理であり奇蹟であるように 神の声のように 苦痛と運命と いいわけを受け入れて ひととき全てを忘れるのです いずれ世界の…

とりあえず手帳にあったやつ

少しばかりの絶望 少しばかりの快楽 あまりに遠い空 立ち去ったあの人 決して戻らない過去 流れ去る現在 否応なく訪れる未来 明日も確かに太陽は昇り あまりにも近くにあったあの唇 常に足の下にある地面 歩く、右足の次に左足を前に出し 右足を前に出し 立…