ファースト・コンタクト

読むのなら、音読してほしい。

超国家資本主義産業機構連合国大統領兼認可地域共産主義専制独裁連邦最高人民幹部会書記長兼汎宗教人間存在政治倫理監督教会永世最高法皇であるフンバルト・ゲリブリバリ=ゲロバッチャは、補佐官のキョン・キョラリルレラ=狂乱濤欄刃の表情を一瞥するなり、妻のデブデブデブ・デブデブデブデブ=デブゥの事を思い出した。部屋に入ってきたキョン・キョラリルレラ=狂乱濤欄刃の表情は緊張に引き攣り、緊急事態の起こったことを告げている。今日は結婚記念日であったのだが、帰れそうにない。

「大統領、本日午後三時、宇宙人からの通信と思われる信号を受信しました」

補佐官キョン・キョラリルレラ=狂乱濤欄刃は超国家資本主義産業機構北米地区担当公共消費調整局より出向して大統領の補佐をしているが、その優秀さによりフンバルト・ゲリブリバリ=ゲロバッチャの職務全般にかかわっている。

「ブレーンを集めてあるな」

「はい」

フンバルト・ゲリブリバリ=ゲロバッチャ大統領は腹の底に力を入れると、その名の通りの事をやらかした後、専用の会議室に向かった。

全地球技術学術研究統括大学院最先端専門研究第一等特別予算供与研究官サブルーチンポテンシャル・ヴァイスマンコマンドー=コギトエルゴチンポマンコが立ちあがり、説明する。

「今回軌道上を游弋するなんらかの知性を有すると推測するに足る物体、それが生命であり知性を有するならば物体とかそれとかいう呼び名は不適当であり何らかの負の、すなわち我々、というのはその我々の一部としての我々地球人類とその不適当な呼称によるならばそれ、すなわち現在軌道上を周回する何らかの知性を持つと思われる存在との間に我々にとって重要とされる例えば種族の存続であるとか将来期待される交流によって得られるであろうさまざまな利益が実際は得られないという逸失利益をもたらすといった、現在我々に迫られている関係性の構築にとって良くない影響を、そのあまり適当とは呼べない呼称によって呼ぶならばそれらが我々、ここではこの地球の上に二本足で立つものの代表と自認する我々がその知性を持つ者に対しては使用すべきとは思われないそれという呼称でもって今までさんざん繰り返してきたように知性を持つ相手に対して好適とは到底思われない呼称を持って呼ぶならば、それを呼称しているということを何らかの既知のあるいは未知の方法で知ったならばもたらすおそれがあるとはいえ、現在我々に与えられている情報からすれば不適当とされる呼称であるそれと呼ばれるそれを、あたかも人間及び擬人化された対象を指すものとしての三人称代名詞すなわち彼とか彼女とか彼らとか彼女らとかの代名詞を使って呼称することには厳密にして堅実にして確実を期さんとつねづね心がける我々、というのはここにいる人類の代表者たる自覚をもってここに参集しまさにここにいるという事実を形成した、また形成し形成しつつあるみなさんではなくまたこの青い星の支配者を自認すれど実際支配をしているのかどうかという判断をより上位の知性に委ねるかという判断において否と結論を出すことによって自らが傲慢であるかという判断を下す可能性を常に保持する明らかに知性を持った猿の子孫と現在我々の頭上にあるいは水平方向にあるいははるか足の下にすなわち時間の関数によって普段の我々の頭上とか足下とか天地の概念を超えて変化する位置を占めていると、そろそろ理解してほしいと私が望むところによれば知性を持つという可能性がある対象に対して用いるべきではない呼称をしかたなく用いて呼称するならばそれが知性を備えていると考えるならばそう予想することが適当であるような対象である、その性質に鑑みて代名詞を慎重に考慮しているとは言えないような代名詞を使って指し示すならばそれとの和集合しての我々、ではなく、この世界に我々、というのは今まさに私が説明しようと試みている集団であるところの我々があたかも存在しないかのような認識の方法をもって認識の結果から主観を取り除きその結果として客観的といわれてはいるものの本来客観的な認識の主体とされる超越的な存在を排除した上で構築される認識の抽象化を経た知識の体系たる科学を扱う科学者としての我々は反対するものであって」

「宇宙人、と呼ぼう」

相互侵略相互自衛総合軍事産業複合体公共政治監視指揮局複層戦線維持特派部隊指揮官のネアンデルタール・バンバンバンキスバン=GAU8M61がサブルーチンポテンシャル・ヴァイスマンコマンドー=コギトエルゴチンポマンコの発言を遮った。誰の目から見ても、彼が宇宙人に頭の中を覗かれているという妄想に取り付かれているのは明らかであった。

「で、なんと言ってきたのだ」

フンバルト・ゲリブリバリ=ゲロバッチャが聞く。

「う、う、ううちちうちうじんは、以下のような文章を送信してきました」

ワレワレハ
ワレワレワレハ
ワレワレハ
ワレ、ワレワレダ
ワレワレワレタ

「ふむ!」

フンバルト・ゲリブリバリ=ゲロバッチャは何事か感得したようだ。実は彼は日本語が堪能であった。

「送信は電波によって行われました。周波数は軍用のもので、特にスクランブルもかけられておらず、単純な無線機でも受信可能であったと思われます」

「一般人が受信していたとすると厄介ね。対処しなければ」

NGO世界保険医学健康維持実力執行部隊公衆衛生福利厚生消毒殺菌人間完全管理局長官のタワシワタシ超絶人間・ジェンダービッグバンが言った。タワシワタシ超絶人間・ジェンダービッグバンは汎宗教人間存在政治倫理監督教会の派閥高潔人間推進セクト内喫煙者殲滅団の異端派の中の異端派の中の異端派の中の異端派であり、すなわち正統派であった。喫煙者を究極の精神的肉体的苦痛の中で殺すために、タバコの葉を焚き染めて中毒死させる、そのためにタバコの葉の生産を増やす、そのために、喫煙するのであった。それゆえに同胞に捕らえられ拷問にかけられレイプされ殺されれば、喫煙者が一人捕らえられ拷問にかけられレイプされて殺されることになり、タワシワタシ超絶人間・ジェンダービッグバンは永遠の望みをかなえることができるのであった。もし望みがかなう時がきたなら、タワシワタシ超絶人間・ジェンダービッグバンは性的絶頂に達するであろうと思われた。しかしタワシワタシ超絶人間・ジェンダービッグバンは性的絶頂が強烈過ぎ、もしその時が来たならショックで死ぬであろうと医者に警告され、恐れていた。つまりは、タワシワタシ超絶人間・ジェンダービッグバンは穏健な人物であった。

「大統領、いかがいたしましょう」

キョン・キョラリルレラ=狂乱濤欄刃がフンバルト・ゲリブリバリ=ゲロバッチャをうかがう。

「私が直接交渉を行う。回線を繋げ!」

一同が驚きの目でフンバルト・ゲリブリバリ=ゲロバッチャを見た。そこに全人類の命運を背負って立つ王の姿を見た。しかし、フンバルト・ゲリブリバリ=ゲロバッチャは妻のデブデブデブ・デブデブデブデブ=デブゥの面影を脳裏に浮かべているのであった。

電話機が用意された。一同、固唾を飲んで見守る。サブルーチンポテンシャル・ヴァイスマンコマンドー=コギトエルゴチンポマンコが合図を出す。フンバルト・ゲリブリバリ=ゲロバッチャは受話器を上げ、相手に何か言う暇も与えず、運命の言葉を発した。

オレオレオレオレオレ、
オレオレオレ、オレオレオレオレ、
俺だよ俺。
近くまできてんだろ、久しぶりだなあ、飯でも食おうぜ

斯くして、人類と異星人と初めての接触は平和裡になされ、人類はやがて未知の宇宙に地歩を伸ばしていくこととなる。