胡蝶

あの蝶は夕暮れの後
夜に沈んでしまうのではなかろうか
僕は眠りの中で鱗粉を呼吸する
朝を越えずに夢のまま
手にかかる水は鮮やかに
皮膚感覚と表題音楽をつないで

一度見た悪夢の内容を覚えている
妹が泣き叫びながら畳の隙間に
目が覚めたことは憶えていない

あの魚は空中で
干からびてしまうのではなかろうか
空気を支配する臭気だけがやたら近く
眠らなくても これは夢で
煙草の煙が定義する
流体力学の絶対時空
誰かが全てを知っているような

僕は死なないだろう
あの蝶はどこにも飛んでいかないだろう