キラキラ

岩手銀行の支店の壁に描かれたキキとララというキャラクターに
ついて昔、母と妹になぜあんなに悲しそうな顔をしているのだろ
うと聞いた、いまでもタバコの煙のように流体力学に従って空気
に溶けた孤独の引きだすやさしい笑顔が僕には見える、母も妹も
そもそも悲しい顔をしているとは思わないと答えた、
   キラキラ
川徳デパートの化粧品売り場の夜がなくても輝く光が見える、横
を歩く白地に花柄のワンピースの女の子が抜け出してきた通販の
カタログの、ファッション雑誌の特集からかけはなれた距離が見
える、時間を距離として文化を補助線として因果の遠近法が発見
される、
女の子が口紅にみとれる光景が飾りたてられたマネキン人形を消
失点として像を結ぶ

歩み寄って目をえぐり出し前髪を掴んで顔面を床に叩きつける、
無煙炭の鉱脈につるはしを入れる鉱夫のように、母親の向かって
くる顔と体に燃える腥いまでの生命を抱き止めて首を折る、白い
泡の消火剤を炎に向けてまき散らすように

下流不来方橋から開運橋のアーチを見やる、間近で見る武骨さ
は離れるほどに減じて曲線は柔らかに、柳あおめる北上の、はる
か上流に素直な曲線を左右対称に従えた岩手山が見える、駅から
中心部にむかう人々が必ず通るこの道の、首を左に曲げれば見え
る、この風景の変化をただ忘れた静止の態はカビの描く地図のよ
う、発見したなら少し眺めて捨ててしまえば思い出さない、ふた
たび発見されたなら記憶は照合されずに上書きされるこの風景に

高さ四百メートルの首のない少女を立てる、両足は盛岡駅をまた
いで低身長のコンプレックスに身悶えるビル群を踏み潰す、屹立
するマリオスビルは届かない少女の陰部をショーツ越しに見上げ
ている、聖ハリストス教会の下の土手から伸びるアンビリカルケ
ーブルの先にエヴァンゲリオン初号機を立てる、中央通りの電話
ボックスのガラスにはひびが入り啄木新婚の家が踏み潰される、
高さは少女と同じぐらい、前かがみの姿勢でナイフを構える

月は落下まであと三時間ほど、空の八割を覆い生まれたての曙光
はいままさに閉じられるすき間から地上を覗き見ている、月の陰
陽の境は押し退けられて光の領土は線になろうとしている、地球
の潮汐力によって引き起こされた火山活動が黒い白目を充血させ
る、視線に頭頂を圧迫され人々は上を見ることができない、
全て僕が見ている、僕は笑う

「ハ」の形をした口に少女の眼球を放りこんでなめしゃぶる、あ
の二人が血管様の赤い網を背景に飛んでいる、拙く幼く痙攣する
抱擁を交わしながらふりまく
   キラキラ
口の中の眼球の凹凸や筋や神経を感じる、僕を、これを中心に視
えるということにおいて全てが等距離を為す、この視球から出な
ければいけないのだと、眼球を噛みつぶしたら

詩を書いていないころ、小説に書こうかと思っていたテーマというか、モチーフです。