禁猟区の上空より

禁猟区の上空より眺め下ろす
森は広く深く
低音に向かう無限音階の稠密さ
樹木は何よりも大きい
陽光は乱反射を経て浸透し
照葉樹の葉は光をむしろ吐き出す
生命の呼気と共に凝結し
見上げれば 光の雲から霧雨

渇きは無く 影も無く
蘚苔類は領地の絨毯に腐心する
天敵を忘れた小動物たちが
円筒形の大地の上で回り続ける
昆虫たちは樹液の井戸端で喋り続ける
蜘蛛が自在に宙を舞う
本能を離れて糸を張り
乱雑が平均に行き着けば
あらゆる場所に あらゆる方向
糸が空間を満たしている

時は重力と一致した
過去から落ち来て
未来へ落ち行く
無風の中を葉が落ちる
一寸、降下すれば蜘蛛の糸にかかり
一つの音符を待つ
糸を水銀の珠が渡る かすめられ
一拍、降下して 蜘蛛の糸にかかり

ずっと、空中に満ちる光と水を呼吸しながら
下に/未来に広がる死の無い闇、海に
 水の無い波に、無限に
落ちていく

枝の上を行く配達人たちはもはや疲れの主で
それでも落ちている水晶の手紙を拾い
背負い棚に納めて旅を続ける
表面に彫り付けられた宛先の場所はすでに無く
文面は内部の微細な傷に記されて
読み出す幻灯機もすでに失われた

いつしか 背に負った手紙を森にぶちまける
枝の上で 宙に
手紙は蜘蛛の糸を破りながら 幾百万の意味を回転させながら
名前の無い未来に/下に 垂直に
落ちていく
有限の果て どこかの枝に降りるまで

軽くなった体で歩き始めれば
百時間後か、百世紀後か
配達人の死体に出会う
また手紙を拾い始める
百時間前か、百世紀前か
誰かがぶちまけた手紙を
時折、枝の上に見出す
未来しか向かう所の無い手紙を

枝の間を渡り 時を横切り
旅は続く
禁猟区の光の中で

気に入ったならブライアン・W・オールディスの「地球の長い午後」とかも読むべし。SF小説